渋谷区に住むって

高級賃貸物件が存在する場所は、都内ではいくつか限られている。
皆さんはまず、高級住宅地といえばどこを思い浮かべるだろうか。港区、世田谷区、目黒区……確かに高級住宅地として憧れる場所だ。
しかし今回はまず「それは渋谷区だ！」と声を大にして言いたい。
自分が上京した当時、若者の憧れの街“シブヤ”を歩いている時に驚いた。あんな街のド真ん中に小学校があるのだから。
我々のような田舎者からすれば、小学校というのは、欧米では“岡”でしかない“山”に囲まれ、だだっ広い校庭で縦横無尽に走り回れる場所に建てられているものではないか。
そんな小学校が、街の中に佇んでいる。校庭は狭い。屋上に運動場がある学校もザラだ。
こう聞けば、「やはり都内に住むのは、ちょっと……」と思う方もいるに違いない。そんな感覚を覆す言葉を発したのは、俳優の東幹久さんだった。生まれも育ちも渋谷、生粋のシブヤっ子である東さんの幼少時代はというと――
「僕たちは渋谷センター街で“かくれんぼ”していました」
渋谷センター街が遊び場！　田舎者には及びもつかない発想である。
“かくれんぼ”といえば、子供の時にしかできない遊びだろう。場所が渋谷といえばなおさらのこと。大人になって渋谷で誰かの目から隠れているとしたら、あなたはもう命の危険に晒されている。渋谷、東京どころか、すぐに日本から離れたほうがいい。
隠れる場所が109だ、パルコだ、東急文化村だ。果ては学園居酒屋やキャンパス酒場……キリがないのでやめておく。
加えて、渋谷区には最強のオシャレスポット、恵比寿と代官山がある。代官山に住み、恵比寿ガーデンプレイスでデート、会社の飲み会は渋谷で。往復の移動手段が流行の自転車となると、あなたはその日から「月9」の主人公になれる。「恋愛できない理由」は渋谷区に住んでいないから……申し訳ない。それは言いすぎた。
ともあれ、都内の職場・遊び場へのアクセスも楽で、東横線を使えば横浜もLOTTE Fit’sを噛んでいる間に着いてしまう街、それが渋谷である。
我々は田舎から上京してきた身。社会的立場もあり、もう渋谷でかくれんぼなどできない。
それでも子供の頃しかできない遊びを、親として我が子に提供できる。男なら、大人になって東さんみたいなことを言ってみたいはず。そんな夢を子供に味あわせることができる父親になってみたくはないか。たとえ、我々に語りかけた声の主が楽しんごだったとしても。
渋谷区に住むこと、これも男の生き様といえる。

ライター亀池聖二郎