新宿区に住むって

ここまで、わずかばかりではあるが、いろんな街に住む理由を考えてみた。その旅の途中で、ふと気付いたことがある。
ぶっちゃけ、新宿区に住めば全てが解決するのではないか、と。
なにせ都庁がある街である。駅の周辺だけでも、三越と伊勢丹などデパートもいっぱいだ。本なら紀伊国屋、DVDならTSUTAYA、あの品揃えは他の追随を許さない。飲みたくなったり、大人の遊びがしたくなったら歌舞伎町があるし、少し歩けば大久保で韓流ブームも体感できる。二丁目に行くと、未来のマツコ・デラックスやミッコ・マングローブに出会えることだろう。駅ビルには吉本興業の劇場があって、お笑いライブも見放題。待ち合わせも「アルタ前」と言っておけば大丈夫、とこのうえない充実ぶりだ。
そこで何か問題が起これば、駅東口の伝言板に「XYZ」と書けばいい。
新宿の中には高田馬場、信濃町、四谷がある。早稲田だ、慶應だ、上智だ。早慶上智だ。理系志望の人のために、神楽坂には東京理科大学も……。
なんだろう、もう他の街について語る必要はなくなってきた。新宿区について説明することすら……いやいや、別に名所を並べたのは文字数を稼いでいるわけではない。失敬な。
しかし、皆さんはご存じだろうか。実は日本アニメの源流『鉄腕アトム』が「新宿区の未来特使」に就任していたことを。
『鉄腕アトム』の漫画連載が始まったのは1952年。来年で同作品は60周年を迎える。アトムは男の……それ以上に人類の夢であった。原子力のおかげで半永久的なパワーを持ち、空は飛べる、10万馬力から100万馬力。そのうえ心優しいのだから、言うことなし。
まさに故・手塚治虫の代表作といえるのだが、そんな手塚先生が1966年に注目すべき発言をしている。
「ぼくはアトムをぼく自身の最大の駄作の一つとみているし、あれは名声欲と、金儲けの為に描いているのだ」
鉄腕アトムが誕生してから60年、この日本はどうなってしまったのだろう。
近未来の象徴であった原子力が日本を脅かし、新宿ではそんな現状に対するデモが繰り返されている。人生の喜びも、悲しみも、怒りも、すべてが存在するこの街に住むには、よほどの覚悟がないといけない。
それでも人は名声と金を求めて、新宿を目指す。鉄腕アトムが「区の未来特使」となったのは、偶然ではないかもしれない。手塚先生は、人間が生きていくかぎり抱えていく永遠のテーマを我々に投げかけ続けているのだ。そんな課題に立ち向かうことこそ、アトムがこの世に生を受けた理由ではないだろうか。
新宿区、それは人々が己の生き様を見せつける場所である。


ライター 亀池聖二郎

ご自宅の賃貸募集を検討中のオーナーさまへ

Livedoor news
当社モダンスタンダードの記事が、
Livedoor newsで配信されました。
Excite news
当社モダンスタンダードの記事が、
Excite newsで配信されました。

follow us in feedly